横顔

今日の1位はかに座のあなた。ラッキーポイントは自動販売機。ラッキーパーソンは映画好きな人。交友関係が広がるかも。


「ラーーーーーーーーーン!!!」 ってなるやつでしょ。

そう友人に聞いたら「最近はそうでもないよ」と言われて驚いた。えっ違うの。あの爆弾の赤と青の線どっちを切るか悩むやつ。あとトランプの順番だかで人が次々と狙われるやつ。ラーーーン!じゃなかった?劇場版を映画館で観たことはない。どうせ次の映画が公開される前にテレビでやるじゃん。あと毎週録画して見てるよ。無料だよ。

安室の女が増殖している。

みんなどうしちゃったの?安室ってあれでしょ?カフェ店員の。ちょっと顔が良くて頭脳明晰でただケーキ作りの上手い小麦肌の男でしょ。それがどうした。降谷のハンコも売れているらしい。ハンコて。まじかよ。降谷も安室じゃん。だからなんなの。みんな安室に取られてしまった。「もうすぐバーフバリがあるよ!」と映画の話を持ちかけようものなら映画→そういえば→安室透。すべての道は安室に通ず。そんなにいいのかあの男が。わかった。じゃあ観てきてやろうじゃないの。

スクリーンの前は女性でいっぱいだった。この1100円出しておとなしく座ってる人達がみんな2時間後に安室の女になっているのか?または安室の女をもう経験済みの人達なのか?想像がつかない。カバンからXperiaを取り出してアプリを起動し、日記に「コナンの映画を観た」と書いて電源を切った。

予告編はアニメ映画ばかりだった。ポケモンだけが気になったけれどきっと観たら泣いてしまうだろう。映画泥棒が出てきていつものように一通り絡み合った後、本編が始まった。

しばらく経って、ズートピアのウサギがふっと頭に浮かんできた。名前なんだっけ。あれは良い映画だった。ってかこの映画にはウサギなんて出ていないはず。仕事で疲れて思考回路がショートしてしまったんだろうか。理由はよく分からない。それにしても登場人物の眉毛の角度がすごい。テレビでは気づかなかった。ごくせんの時の亀梨和也みたいだ。

少年探偵団のいつもの茶番のようなやりとり。灰原哀の鎖骨。立派なおなかの目暮警部。話は読めてきた。きっとあれがあーなってこうなってこうなる。合ってる。合ってた。あーやっぱりね。それ出てくるよね。すげえ。あー。もう見た。うんうん。そうなるよね。かわいそう。おー。あー。

「あー」じゃないよ。安室の女どこ行った?落ち着いたらいきなり空しくなってきた。「安室の女になった」とTwitterに書き込んでいた友人知人の顔やアイコンが頭の中になだれ込んでくる。ごめんね。わたしは安室の女になれなかった。降谷のハンコも買えない。週に7本刑事ドラマ見てるのが悪かったのか。わたしもTwitterで「安室の女になった」だけツイートして赤ふぁぼを取りたかった。両隣に座っている人を見る。興奮した横顔。わたしは選ばれなかったんだ。残りの時間はかなりあるはず。どうやって過ごせば良いのだろう。そんなことを考えていたのはほんの数分だった。

映画が終わって明かりがついた。女性達はみんな笑顔だった。わたしは無心だった。ただ無のまま歩き、余韻でパンフレットを買う。レジで1万円を出したらおつりが貰えた。雨の中お気に入りの傘をさして歩き、駅に着いて改札をピッとして電車に乗った。カバンからXperiaを取り出し、Amazonで雑誌を買った。コンビニに寄って何も買うものが思いつかず、帰宅して洗面台の前に立って驚いた。

確かコーラしか飲んでいないはず。じゃあどうしてこんな風になるのか。そこには居酒屋のトイレで見かけるタイプのわたしがいた。Youtubeで「名探偵コナン メインテーマ」と検索する。そうだ。映画館を出ても頭の中でずっと鳴っていたんだ。傘をさしていても雨の音が聞こえなかった。動悸がすごくて言葉がでなかった。無音だと思い込んでいたんだ。20回ほど再生して筆を取った。

わたしは安室の女になった。